本当に信頼できる相手にしか、本物の魔法は見せてはならない―無数の解釈を許す、あの日の思い出:うらら迷路帖 第07話 「祝詞と魔女、時々覚悟」

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日本人読者の皆様におかれましては、「現代文の試験」の洗礼を受けたことかと思います。小説として商業出版されている日本語の文章の一部が、まるでまとめサイトのスレ抜粋みたいに切り貼りされた状態で印刷されてて、Togetterで赤字にするようなノリで傍線部が引かれてて、「これはどういう意味か4択の中から答えろ」ってクイズが始まるとか、そんなやつです。アレですよ、アレ。

あの「問題」が成り立つ裏には、1つの暗黙の了解、「公理」が流れています。つまり、「物語の読み方と解釈には一意性と正解があり、それがわからないお前はカスであり、知的動物ではなく、人間が食料としても何ら道徳的問題がない」ということです。

今日は、その了解が成り立たないか、あるいは成り立たなくてもよいことにした瞬間に突然面白くなる、魔女の女の子と、もっともっと小さな女の子の、魔法の秘密の物語についてお話しましょう。

物語の流れはおおよそコミックス版と同じですが、物語の主題が1つに整理されて、効果的な映像演出などが加わってより抒情的になってる(とわたしは思う)アニメ版をベースとします。

あらすじ

小さいころから、ほしいものは何でも簡単に手に入った。

「アンシャンテ、お嬢さん!」

そんなあたしが、唯一手に入れられなかったもの。

世界で一番憎らしくて、世界で一番大好きな人。

小梅の回想

主要キャラの1人、「小梅」の、今よりずっと昔、彼女がもっと幼かった頃のお話です。

小梅は巨大財閥「雪見家」の1人娘。親におねだりすれば、何でも簡単に手に入る。

そんな何一つ不自由ない暮らしをする彼女の元に、ある日「マリ・キスピルクエット」というフランスからの留学生がやってきます。

初めて出会った異国の少女。そして、魔女。

そんな彼女は、さっそく小梅をフランス語の「梅=プリュネ」から取って「プー」と呼び、そして、いきなり、おでこに、ちゅ!

「今のは呪いのキスよ!魔女流の、あいさつなの!」

「ななな、な、なにそれ!『呪い』って、わたし、どうなっちゃうの!?」

「あたしと、とっても仲良くなれちゃうのっ!」

「!?」

自由奔放ですね。そんなマリが繰り出すたくさんの「魔法」に、小梅は驚きます。

「マリって…何者なの…?」

「言ったでしょ、魔女だ、って。
 こう見えても、300歳よ!魔女は長生きなの!」

「すごい!…30歳くらいかと思ってた…」

「失礼ね!! こう見えてもまだ18歳よ!!

「なんでそんな嘘ついたの…!?」

小さな小梅は、突然やってきた「魔女」に、興味津々です。

「ねぇ、どうしたら魔女になれるの…?」

「うふふ!わたしは魔力を得るために、人魚をフライにして食べたのよ」

そんなマリとの日々が、小梅は楽しくてしょうがないご様子。

マリは悪戯好きで、いじわるで、嘘つきで、天下無敵。

物知りで、お茶目。可愛くて、お洒落。

ちいさなわたしは、マリの全部に夢中になった。

そんな不思議な力を小梅に見せてくれるマリですが、小梅のパパやママは全く信じていません。

「マリってすごいんだよ!魔術が使えるの!」

「マリは手品が上手なんだなぁ」

「ほ、ほんとだもん!」

「小梅をからかってるのよ」

「マリは本物の魔女だよっ!」

マリのすごいすごい「本物の魔法」を一切信じてくれないことに、小梅はいら立ちます。でも、マリは気にしていない様子。

「もう、頭に来ちゃう。お父さまも、お母さまも、信じてくれないの」

「いいのよ、そういうもんだし」

「えぇ!?」

「それより、わたしは勉強しないと。そのために、この国に来たんだもの」

「お勉強って、何の?」

「東洋の魔術よ」

マリは何のためにこの国に来たのか。それは勉強。では、それは何のため?

「わたしは箒で世界中を旅して、魔術を学んで、世界で一番の魔女になるの。それが、あたしの夢なのよ」

「世界で、一番の魔女…」

「でも、これは秘密事項よ!魔女はミステリアスじゃなきゃお洒落じゃないもの!
 口封じのおまじないよ!」

「世界で一番の魔女になる」という彼女の夢をかなえるため。それが目的ですから、魔法がインチキだと他人に思われたところで、彼女は一切意に介しません。

一方の小梅は、それでもやっぱり、マリが本物の魔女だと信じてもらえないことがどうしてもご不満です。あんなにすごいのに!

そこで小梅は、マリが昼寝している間に、彼女の箒を盗んで、屋敷の一番高い窓から飛び立つことで、みんなに魔術を見せて信じてもらおうと画策します。

みんなに魔術を見せれば信じてもらえるよ、マリは本物の魔女だって。

(窓の前に立つ小梅)

マリの箒があれば、飛べるはず…。

(二階から下を見下ろし、思わず震える)

マリのためだもん!絶対飛べる…

かくして覚悟を決め、箒にまたがって飛び降りる小梅。

…しかし、あれれー!?

本物の魔法の箒のはずなのに、まったく飛べません。このままでは、地面に激突してしまいます!

「マリー!助けてー!」

ぱちん!と指がはじける音がすると、箒は空を飛ぶようになり、小梅は難を逃れます。

そこに現れたのは、もちろんマリでした。

「意外と勇気があるじゃない。
 でも、ちょっとオイタが過ぎるわね、プー」

そのマリは、まったく仕方がないわね、と言わんばかりの、ちょっぴりあきれたような、でも優しい、そんな顔をしていました。

そうして「勇気」を認めてもらった小梅は、「本物の魔法の箒」に2人でまたがり、夕焼け空を散歩します。

「すごい!やっぱり飛べたね!」

「あったりまえでしょ!魔女だもの。
 …でも、魔術は本当に信頼できる人にしか見せちゃダメなの。
 だから、内緒にしておいて。じゃないと、色々厄介だから」

「なんで?すごく、かっこいいのに」

「それがわかんないなら、プーはまだまだ『プチプチプリュネ』ってことよ」

そんな楽しい毎日に、突然終わりが訪れます。

それからしばらくして、マリの言葉の意味が分かったの。

冬。原因不明で医者も匙を投げる疫病が、町で蔓延してしまいます。新聞の1面も、感染者が急増したことを危機感を持って伝えています。なお、この作品は2017年放映ですので、そこんとこはよろしく。

雪見家の主とその妻に、メイドが震える声で報告します。

「あの…奥様…。町で噂になっているんです。
 病を呼び寄せたのは、雪見家に居候している魔女じゃないか、って」

「何を、バカバカしい」

「ですが、雪見家の信用にかかわります!
 小梅お嬢様にも、悪影響があるかもしれません…」

マリはその様子を、陰からこっそり、これまでで一番真剣なまなざしで見つめます。

「わたしたちは、君のことを疑ったりはしない。だけど、このまま町に留まるのは君のためにも…」

「ええ、分かっています、旦那様。プリュネのためにも、フランスへ帰ります」

「…すまない…」

「そんな顔をなさらないで。厄介者扱いには、慣れっこですわ」

達観したような笑顔で帰国を決めたマリ。

ですが!

小梅はもちろん!

そんなの嫌に決まっています!

「やだ やだ やだ やだ!
 なんで!?
 マリは悪い事してないのに!
 マリが帰るなら、小梅も一緒に仏蘭西に行く!
 マリの弟子になって、魔女になる!!
 …お願いだから、小梅も連れてって…!」

「あのねぇ、魔女になるってそんなに簡単じゃないのよ?
 プーみたいな泣き虫は、弟子にだってなれないわ」

「なれるもん!魔女になって、マリをいじめる人の事を全員呪ってやる!」

「うっふふふ!なっかなかいい事言うじゃない!ちょっとは素質、あるかもね」

「…ほんと!?」

「そうね…じゃあ…」

あの「箒」を、小梅に渡すマリ。

「この国で一番の魔女になること。
 それができたら、あたしの弟子にしてあげる。
 …これは呪いのキスよ。小さな魔女に、試練と困難を。
 元気でね、マドモアゼル・プリュネ。」

そして意地悪で素敵な魔女は、フランスへと帰っていきましたとさ。

今ならわかるの。マリはきっと、魔女になんかなるなって、言いたかったんだって。

だから、「この国で一番」なんて無理難題を吹っ掛けたのよ。

だけど、思い通りにあきらめてなんか、やらないわ!

だから、わたしは迷路町に来たの!

マリとの出会いと別れ、そしてマリとの約束が、小梅が「うらら」と呼ばれる占い師、しかもその中での最高位である「一番占」になるために、何不自由のない自分の家を離れ、「迷路町」で厳しい修行の道を歩むようになった、決定的なきっかけだったのでした。

「秘密にしてたのに…」

「別に隠さなくていいじゃない?」

「それじゃお洒落じゃないもん!」

そうだよね、マリが言ってたとおり、魔女はミステリアスじゃなきゃあ、いけないもんね!

魔女の秘密を根掘り葉掘り

削れる台詞が中々無くて、長くなってしまいました。演技も映像もよいので、ぜひ実際に見て・聞いてみてくださいね。

ここからはこのエピソードを「解釈」していきます。

マリは誰にも心を開いていない、ただ一人小梅を除いては

このエピソードは、メタに言えば、まぁよくある、各キャラクターの自己紹介やキャラ付け、バックグラウンドの紹介のための、いわゆる「キャラ個別回」というやつになります。このエピソードを入れることでキャラクターの行動に説得力を持たせたり、キャラに深みを与えて小梅のことを好きになってもらおう、みたいな。そのためのエピソードです。

ですが、ですが!

この話は意図してか偶然か、そんな「お約束の枠組み」を超えた、それ単体で非常に面白いお話になってしまっています。

そうなってしまっている鍵を確認しましょう。

それは、もちろん。

小梅が箒で無謀にも空を飛ぼうとし、マリがその勇気を認めてくれた時の、この言葉です。

…でも、魔術は本当に信頼できる人にしか見せちゃダメなの。
だから、内緒にしておいて。じゃないと、色々厄介だから

このセリフから、マリのすごいすごい魔法を、どうして小梅以外、だれも信じてないのかの理由がはっきりと明らかになります。

そう。

そもそも単に、本物の魔法を、小梅以外の誰にも、見せていないから、です。

見せてないんだから、信じるわけないじゃないですか。とっても簡単な話ですよね?

そして、彼女はいくらこの国で社交的に、笑顔を振りまきながら、非常にうまくふるまっているように見えても、実は、小梅以外、だれも心からは信頼なんかしていないし、逆に小梅のことだけは心から信頼している事もわかります。

では、小梅が今まで見ていたものは?

ここで止めてはもったいない。さらに問いをつづけましょう。

マリは本物の魔法を、小梅以外には見せていない。

マリは本物の魔法を、小梅だけには見せている。

では、その小梅に、本物の魔法を見せるようになったのは、いつからでしょうか?

言い換えれば、小梅がこのシーンに至るまでに見ていたものは、本物の魔法だったのでしょうか

それとも、実はここまでのものは全部、ただの手品だったのでしょうか

すべての解釈を楽しんでしまえ

さて、日本の現代文の試験であれば、きっと「傍線部Ⅲ『魔術は本当に信頼できる人にしか見せちゃダメなの』とあるが、マリが小梅を『本当に信頼できる』と判断したのはいつか、50文字程度で説明せよ」といったクイズが始まり、そのクイズの出題者の解釈をくみ取って答えられるかどうかで、この世界の「うらら」、つまり「大学生」という「学者のたまご」にするかどうかの選抜を行うのでしょう。

ですが、今回は大学入試ではありませんから、その問いを立てるのはともかく、その正解を1つに決めるのをやめましょう

その代わりに、マリが小梅と出会ってからこのセリフが発される瞬間のすべて、それのどれもが正解でありうるとしてみましょう

すると、それぞれの解釈はどれもそれぞれに「美味しい」事に気づきます。これに気づいちゃったら、人間が求めて限りない、「唯一無二の絶対の真実」なんか、どうでもよくなっちゃいますよ?

可能性1:勇気ある行動を見て、信頼するようになった

比較的素直な解釈の1つです。「意外と勇気があるじゃない。」という言葉通り、この小梅の勇気ある行動を見て、「ふむ、こいつなら信頼できるな」と小梅のことをマリは認めて箒に乗せてくれた、とする解釈です。素直ですね。

この可能性をとると、実は小梅が今まで魔法だと思っていた数々の行為は、実は全部ただの手品だったことになります。漫画版には、この解釈を採用すると意味が文字通りになる、「マリが来てから毎日手品みたいに不思議で楽しくて」という独白もあります(p.87)。小梅と仲良くなろうとしていたのも、「留学先の子供を懐柔しとけば親の機嫌も同時に取れるし、雪見家とご令嬢経由でコネが作れれば、この先いろいろ好都合よね~」という程度の話であって、いままでのは全部ただの「ご機嫌取り」、「仲良しごっこ」、「処世術」でしかなく、小梅のことなんか、な~んとも思ってなかった、極論すれば、「留学先の大財閥のご子息」という「ラベルの貼られた人間」「社会的ロール」を通してでしか認知していなかった、という極端な解釈だってできます。

この可能性を採用してエピソードを見返してみてください。完全に違って見えるはずです。

可能性2:最初から信頼していた(少なくとも、ある程度は)

可能性1はいくらなんでも無理があるんじゃない?留学先の子供をあしらって機嫌を取るにしてもサービスしすぎじゃない?そこまでドライでは、流石になかったんじゃないの?

そういう意見も、もちろん妥当だと思います。

さて、マリは魔女ですよね。魔女は、この作品において「西洋のうらら(占い師)」とも呼ばれる存在です。ですから、小梅と出会った瞬間に、直感的に、呪術的に、あるいは「運命」や「星の巡り」のようなものを感じて、「この子は信用できるわね」と判断して、最初から完全に、あるいは「ある程度」は信用していた、そういう可能性もありましょう。

途中で「世界で一番の魔女になるのが夢なの」「でもこれは秘密事項よ」と夢を語るシーンに関しては、こちらのほうが素直に読むことができます。

この場合、今まで小梅が見てきた「魔法」は全部ほんもので、小梅以外からは見えないよう、魔法陣や結界を張って他の人からは隠していたのでしょう。しかし、それでも一部の『魔法』は「そこまでは見せられない(信頼できない)」ということで、やっぱり手品か何かだったのかもしれません。

そして、その「信頼度」も、ずっと同じだったわけではなく、この物語を通じて、上がったり下がったりしていたことでしょう。

この「最初はどれほど信用していたのか」「この時点ではどれほど信用していたのか」はいくらでも可能性が考えられますので、色々レベルを変えて見返してみてください。その「すべて」でエピソードの印象はそれぞれ変わって見えるはずです。

可能性その3:描かれてないだけで、小梅が覚えていない何かがあった(そうだ、二次創作しよう!)

このエピソードは、小梅の回想です。ですから、当たり前ですが、小梅が覚えていることしか(基本的には)登場しません。ですが、もちろんマリにはマリの意思があり、記憶があります。

ですから、「マリが小梅を信頼するようになった」のは、「実は小梅が記憶していない、この小梅の物語には出てこない、マリにとっては特別に感じられた、別のエピソードがあったからだ」、と解釈することだって可能です。ええ、一番現代文の教師が嫌いそうな解釈ですけどね。

この解釈を採用してもアニメ本編の解釈には直接の影響はありません(だって描かれてないんだから)が、二次創作してみるのにはぴったりな解釈・題材だと思います。

ぜひみなさんがその「エピソード」を紡いだら、ぜひわたしに教えてください。わたしも形にできたら、ひっそり公開しようかと思います。

もちろん、物語も魔法の1つ!、ということで、本当に信頼できる人にしか見せないのもアリかと思います。UGC 全盛で忘れ去られてる気がしますが、二次創作に限らず、べつに作ったものをみんなに公開しないといけないわけじゃ、無いんですよ?

うーん、小梅とマリの間に、何があったんでしょうね。とっても気になります。今日は寝れるかな?

アニメ版と漫画版、それぞれのアートワーク

本題とは一切関係ないのですが、この話は先述したとおり、おおむね原作漫画をなぞったうえで一部演出やセリフをカットしたり追加したものです。その中でも、とくにビジュアルや演出が光ったアニメ化になっていると感じました。

なかでもわたしのお気に入りは、最後に小梅が「困難と試練」を授けられるシーンです。

原作漫画はこんな感じです:

フランスへ帰る準備をするマリを止めようとするシーンになっています。

これが、アニメ版では別れ際に、雪が降り積もる中でのシーンに変わっています。

これがまたとても抒情的で、印象的な、小梅が大きくなっても忘れられないのも納得してしまう、そんな、幼い日の回想の〆にふさわしいシーンに仕上がっていると思います。

一方、漫画版だって負けてません。扉絵の次の1枚は、イラストレーターとしての「はりかも」の実力が存分に発揮された、想像を掻き立てられる、とてもすてきな一枚だと思います。単行本だと白黒なのが、本当にもったいない。

一応画集にはカラー版もあったり(セリフとの相乗効果はこれでは見れませんが…)

マリと小梅の毎日はきっとこんな感じだったんだろうな、とあれこれ想像させてくれる、落ち着いてるけど、にぎやか。言葉で表現すれば、そんな絵でしょうか。

一方で、アニメ版の冒頭に追加されているこのカットは、光の使い方も含めて、「あぁ、小梅にとってマリはそれほど特別な存在なのだな」と、初見ではなく、改めて見返した時にはじめて意味がわかる、とても印象的な一枚になっています。

いやしかし、ほんと、ここの光の使い方は本当に…とってもきれい。

アニメはいつ見ても面白いし発見がある

「今期何見てる?」もいいけどさ、好きな時に好きなようにアニメ見ようぜ。そして好きに語ろうぜ!流行りなんか気にせず、二次創作しようぜ!

蛇足:すこぶる正しい「5歳児から見た18歳」像

これどこに書くかなやんで思いつかなかったのでここにぶちこむんですが、このエピソードの「5歳から見た18歳」というものが、すこぶる正しく描写されてる感じがして、そこも好きです。そうそう、18歳と30歳の区別は、付かないですよねぇ(笑)。

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